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2018年度第2回「薬物依存からの回復」と寄り添い、歩く -マーシー Mercy me?

  • 開催日:2018年12月8日
  • 会場:ルーテル東京教会

【主催】まちぽっと、高木仁三郎市民科学基金、難民起業サポートファンド
【協力】ビッグイシュー日本、日本ダルク、関野和寛氏(ルーテル東京教会)、早坂毅氏(税理士)、濱口博史氏(弁護士)
【後援】新宿区社会福祉協議会
【助成】公益財団法人キリン福祉財団

登壇

田代まさしさん、高橋さん(日本ダルク)
堂本暁子さん(元衆議院議員、前千葉県知事)
関野和寛さん(ルーテル東京教会牧師/牧師ROCKS)
奥田裕之(NPOまちぽっと) *企画コーディネート

本編

 2018年度第2回は、昨年に続いて「薬物依存」がテーマです。元芸能人であり当事者でもある田代さんと、前千葉県知事で近年この問題に積極的に取り組んでいる堂本さん。まったく違う経歴を持つお二人をお迎えしました。当日はビッグイシューの販売も行いました。
 クリスマスシーズンということもあって、会場では1960年代モータウンのクリスマスソングが流れるなか企画スタートです。


1)お話しと音楽 関野和寛さん

 まずは会場のルーテル東京教会の主任牧師であり、牧師ROCKSで活動するロッカーでもある関野さんの登場です。音を歪ませたベースギターを持って話し始めました。

 先日、教会に近所のちょっと認知症を患っているお年寄りがやってきたんです。彼女はキリスト、マリア、ヨセフの前に立ち、信者と同じように頭を下げていました。そして何かを置いているんですね。手を3回たたいて去っていきました。「ばーちゃん何を置いたのかな?」と思って見たら、バナナが一本置いてありました。お供え物だと思ったんでしょう。

 その後、ホームレスのような感じのじいさんがやってきました。泥酔した状態でした。ぼくはこの教会は誰が来ても良いと思っているんですけど、さすがに酔っ払った勢いで来るのは困る。
 彼はキリスト、マリア、ヨセフの前に座り込み、キリストたちに語りかけだしたんです。「おいお前、こんなところで寝てたら風邪引くぞ」って。どうも本当の人間だと思っていたようです。そして、父ヨセフに言うんですね「おいお前、仕事どうしたんだ。こんな母ちゃんと赤ちゃんがいる中、ボーとしてんじゃねえよ」、「そうか仕事がねえのか、俺もだ」、「家もねえのか、俺もだ」。
 そして「分かった、これ飲め」と言って、ドカーンと何かをキリストの前に置いて去っていったんです。まさかと思ったけど、やっぱりお酒でした。その日にキリストの前に置かれていたのは、バナナとワンカップのお酒でした。

 今日もこの中で、もしかしたら注射器を持っている奴がいるかもしれないけど、後でキリストの前に置いていってくれ。その間は薬を使わなくて済むから。みんな、おまえらの持っている罪、薬、お金。すべて、キリストの前に置いていってくれよ!

 そして爆音で1曲歌って終了。あっけにとられた参加者の皆さんも多数見られました。

2)「薬物からの回復と「寄り添う」ということ」 高橋さん、田代まさしさん

 日本ダルクの高橋さんから、ダルクの活動とご自身のお話しをしていただきました。

高橋さん

 ぼく自身もかつて薬物依存で、現在は日本ダルクの手伝いをさせてもらいながらリハビリを続けています。日本ダルクは、薬物、アルコール、ギャンブルなどの依存当事者のリハビリ施設です。まず入所し、その後に通所に切り替えていく方法を取っています。新宿区のアパリクリニックという病院の中にあって、日本ダルクはクリニックとの2本立てで活動しています。
 そこでは、基本は「言いっぱなし、聞きっぱなし」の当事者間のグループワークを行っています。薬物を使ったことのない人に、いくら「止めなよ」と言われても、“ある程度までしか来ない”んです。だけど当事者同士だと、分かり合えるから“その先まで来る”んですね。

 ダルクにつながるまでに、ぼくも家族やいろいろなものを失ってしまい、自分がいけないんですけど「自分ほど不幸な人間はいないんじゃないか」と思っていました。ただ、ダルクで話を聞くと、もっと不幸な人生を歩んだ人がたくさんいます。以前は、「自分は社会の中で学んでいないし、ちゃんとしたこともしてこなかったから、もう社会には出られないだろうな」と思っていました。
 でも、もっとつらい状況なのに社会でいま回復をして頑張っている人を見ると、ものすごく勇気をもらって、諦めかけていたものをもう一度やってみようという気持ちになるんです。

 自分ひとりの力だけで頑張って薬を止める努力をしても、「止め続けること」ができませんでした。それには「仲間」が必要でした。ダルクにつながった最初は、その仲間に「俺は違う」と思っていました。それでも、その人たちと共同生活をすることで見方が変わってきました。「俺もおかしいんだ」、「この人より自分の方がおかしいんだ」。そう思わないと、ぼくの場合は良くならなかったですね。
 ダルクは日本全国に60ヶ所くらいあります。そこには1,000人くらいの仲間がいます。いまは困った時にはいつでも来てくれる仲間が日本中にできました。

 小さな頃、母に「友だちは大切にしなさい」といつも言われました。以前は妻と子どももいて「家族は大切にしなさい」と周りに言われました。けれど、近くにいる時にはその大切さに気がつきませんでした。離れて、失くして初めて気付きましたが、その時にはもう遅すぎました。だから、いま同じことを繰り返さないためにダルクでプログラムを受け、仲間と一緒に寄り添って歩いてもらっています。マーシーさんもその仲間です。
 日本ダルクは新宿の余丁町にあります。もし薬物、アルコール。ギャンブルなどで困っている方がいたらぜひ連絡をしてください。

田代まさしさん

 続いて田代まさしさんの登場です。「私が覚せい剤を使って、どのような生きづらい人生を歩んできたのか。曲に合わせてお送りしたいと思います」と、いきなり音楽に合わせた語りが始まりました。「まさしです・・・。このあいだテレビでシャネルズの映像が流れました。ぼくのところだけモザイクがかかっていました・・・。まさしです(以下略)」。

【「寄り添う」ということ】

 楽しんでいただけたでしょうか(拍手)。いや、ふざけているわけじゃないんですよ。回復には笑顔や笑いが必要だなとすごく思っているんです。
 「回復」も平坦ではないなと思います。実際問題、ぼくたちには明日が分からないんです。いつ何時、またスイッチが入ってしまうか。普通に生活をしていても、そんな瞬間がたくさんあります。駐車場に「無断駐車禁止」と書いてあると、「いや、注射は無断でしないとつかまるだろ」とか思っちゃいますから(笑)。

 タイトルにある「寄り添う」について、ダルクの近藤代表が「世の中は、過ちを正そうとするばかり。過ちに寄り添う人がいてもいいだろう」と話していました。近藤さんのこんな考え方に、ぼくはすごく感銘を受けました。

 最初はダルクが嫌だったんです。近藤さんを見たことあります?いつかこの人に壷とか高い水晶とか売りつけられると思って、早くおさらばしたいなと考えていました。でもいつの間にか「俺の居場所はここしかないな」と思うようになっていました。社会では、仕事はない、家は貸してくれないなど、ぼくらを排除しようとするばかりでしたから。ぼくもマンションを借りに行ったんですけど、どこも貸してくれませんでした。

 薬をやっていた時には、誰も止め方を教えてくれなかったし、止めている人を見たことがなかった。薬をやっているときは、やっている人しか出会わないんです。ダルクではじめて止めている人に出会って、「止めようとしている人が、こんなにいっぱいいるんだ」とちょっと感動したわけです。
 年に1回、でっかい場所で当事者のコンベンションがあるんですけど、そこに何千人と集まるんです。みんなヤク中です。そこでお祭りみたいに励ましあうわけですが、初めてそこに参加したときには「何がお祭りだよ、俺たちはあとの祭りだよ」って思いましたね(笑)。

【「回復」は、なかなか理解してもらえない】

 薬物依存は病気だと捉えているので、「更正」ではなくて「回復」と言っているんです。ぼくはテレビにはもう出られないって言われていたんですが、有名人が薬物で逮捕された時にはコメントを頼まれます。「そんな立場ではないし、人様に対してアドバイスもできません」、「どうしてもというなら自分の意見を、自分の言葉で話すだけですよ」と言って、「回復」についてお話ししたんですが、見出しは「田代まさし、更正へのアドバイス」になっていました。

 あれだけ言ったのにと思って、別の機会に「回復っていう言葉を使ってくださいね」とお願いしたら、「田代さん、世の中は回復ではなくて更正を求めているんです」と言われました。何回お願いしても、ぼくたちの声を伝えてくれないんだったら、もう出なくていいかなと思っています。

 以前に本を出したときも、記者会見で「出所して最初に食べたもので何が一番おいしかったですか?」という質問があったから、正直に「近藤代表が初日にご馳走してくれたしゃぶしゃぶです」、「最初は何でと思いましたけど、後になって俺たちは仲間だとか、これからシャブと向かい合っていかなきゃ駄目なんだというメッセージだったと思えるようになって、あの時の味は忘れられません」と答えたんです。

 そしたら、その日のヤフーニュースのトップに「田代まさし、出所後すぐしゃぶしゃぶ。あの味忘れない」って出たんです(笑)。はしょり過ぎお前ら、なんでそこを切ってつなげるんだよ(笑)。

【笑顔で伝えるという役割】

 以前は周りも、自分自身でも、ただ駄目な人間だと思っていたんですが、ダルクに入って近藤さんの講演に同行したり、そのうちに一人で話をさせてもらったり、刑務所からダルクに来た手紙に返事を書いたりしたりする「役目」ができたんですよ。
 ぼくがダルクにお世話になっていると報道されて、ぼくあてに「マーシーさん、本当に止めたいんですけど、どうすればいいでしょう」とか刑務所から手紙が来るようにもなりました。刑務所に入っていたので分かるんですが、コピーだと「なんだ、実筆じゃないのか」と思っちゃうんです。だから、ぼくは実筆で返事をしています。

 そんな役割ができて、仲間たちの手助けをしたり、今日のように皆さんの前で話をさせてもらったり、メッセージを届けたりするには、自分がしっかりしている必要があるじゃないですか。それが抑止力のひとつになっています。
 実際に講演を聞いてダルクに来る人もいました。ぼくは、何かを「正そう」としている訳じゃないんです。経験したことを伝えたいし、それがもし誰かの役に立つのであれば「こういう経験をしたけど、俺はこういう風に乗りこえたよ」って言ってあげることもできるじゃないですか。

 ぼくは、笑顔でこの問題を伝えたいと思っています。例えば、犯罪というのは被害者と加害者がいますが、この場合は自分のお金で、自分で薬を買って、自分の体を痛めつけているわけです。だから被害者っていないじゃないか、と捕まってすぐは思っていました。
 落ち着いてきてからは、家族や周りの仲間や応援してくれたファンとか、いろいろ迷惑をかけたっていうことが分かりましたが、最初はもし被害者と加害者がいるとしたら、薬を打つ右手が加害者で、打たれる左手が被害者だと言いたかったですね(笑)。

 そういう話をすると、それを聴いた方に「貴方が薬を買ったお金が暴力団の資金源になっているのよ、その被害者がいるじゃない」と呼び出されたりします。分かってますよ、右手と左手のたとえ話を言いたかっただけ(笑)。ただ皆さんを笑顔にさせたいって思っているだけなんです。

【「シャブ山シャブ子」はオーバーです】

 そんなこんなで刑務所を出所して4年目になりました。偉そうに話していますが、正直な話しまだ薬をやりたい気持ちがあります。これまでは、こんなことは言えなかったんです。テレビに薬が出ているのを見ると、うずうずしちゃう(笑)。そういうシーンを使うんじゃない!知らない人が興味持つぞって思うこともよくあります。

 薬をやっているときは、本人はまったく変わっていないと思っています。「絶好調だな、俺」、「ボクサーみたいな体になってない?」って思ったりもしますが、寝ない、食べないで、ガリガリなんです。違った情報も多いんです。よく禁断症状って酷いでしょうねって言われます。人によって違うんでしょうけど、ぼくの場合はただひたすらずっと寝ちゃうだけ。幻聴も幻覚もまったくなかった。
 最近はテレビで「シャブ山シャブ子」っていうのが出てきたけど、あれはオーバーにやりすぎだから。酷くなると、カップヌードルのカップの船でハワイに行ってきたとか、お化けが出てきたとか言う人もいますけどね。

【問題を楽しく伝えたい】

 ダルクではバースデイを祝うんです。バースデイ・誕生日といっても、生まれた日じゃないんです。薬物を止めて何年かなんですね。止めたことをお祝いしましょう、ということなんです。ケーキを食べながら、「3年バースデイ○○○おめでとう」みたいにお祝いするたびに、「刑期3年か~、俺は7年だったな~」って思います。「それじゃ、ここで10分休憩しましょう」と聞くと、「○○求刑か~、おれは3年半だったな~」って思うんです(笑)。
 こんなふうに、すべてそっちにつなげちゃう。何にでも落ちをつけたがるのは性格だね。楽しそうに話していますけど、悲しい話はいくらでもあるんです、しないですけどね。ぼくの役割は、問題を楽しく伝えることだと思っています。こんな自分ですけど、よければ応援してください。どうもありがとうございました。

3)「薬物からの回復」と、寄り添い歩く 堂本暁子さん

 続いて堂本さんのお話しです。前半の話しをお聞きになって、内容をまったく変えてしまった堂本さんの真摯な姿に、多くの方が感銘を受けたようでした。

【私自身のこと】

 今日はお二人の話をお聞きして、当事者でない私がこの問題に対して空々しい話をするべきではないと思いました。経験をしていない人が何を言っても虚しいということが世の中にはあるんですよね。
 ですから今日は私がどうして薬物問題をテーマにするようになったのかについてお話しをしようと思います。

 私は、ここの牧師さんと同じ啓明学園の出身です。隣の席に小野洋子がいたりして、戦前の帰国子女でした。最初はTBSというテレビ会社に勤めました。映像の仕事がとっても好きで、ジャーナリストの視点でディレクターやカメラマンもしていました。
 私は自分から積極的に何かをする人間ではないのですが、土井たか子さんに女性の国会議員になって欲しいと頼まれました。ずっと断っていましたが、初めての女性の政治リーダーがここまで言うのだからと受けることにしました。千葉県知事も、千葉県のNGO/NPOの人たちに出てくれませんかと頼まれたんです。この知事選は落ちるかもしれない無謀な出馬だったんですが、地方政治がやってみたくて出ました。

【女子刑務所との出会い】

 私は、数年前まで覚せい剤などの薬物についてはまったく知りませんでした。ある時、友だちに栃木の女子刑務所を見にいって欲しいと訴えられ、実際に視察してとても驚きました。それは、女子刑務所に入っている人の85%の原因が、若い人は覚せい剤、高齢者は窃盗それも万引きだという実態でした。

 最初は高齢者の万引きが気になりました。認知症、摂食障害などの病気が原因で、病症として万引きをしている人が多かったんです。私は県知事をしたこともあったので、「栃木県や栃木市の福祉や医療の方はどうしているんですか」と聞いたら、「一切関係はありません」という答えでした。
 確かに制度上は、刑務所はすべて国が管理していて、そこで完結しています。「千葉県知事の時代もそうだった。千葉刑務所の受刑者も県民であることに変わりはないのに」と思いました。今の日本は福祉制度が充実していますから、刑務所の外にいれば一定の福祉サービスが受けられます。それに対して、刑務所の中は国民が受けることのできる恩恵を一切受けていません。それはおかしいと思ったんです。

【女子刑務所の問題点】

 ジャーナリストとしての血が騒ぎました。そこで「女子刑務所のあり方を検討する会」を立ち上げ、当時の谷垣法務大臣に「この問題はおかしい」と訴えたのです。まず過剰収容があります。男子刑務所は収容人数が減ってきているんですが、女子刑務所は増加の一途をたどり、人数が高止まりなんですね。ですから、独房という3畳位の1人部屋に2人、6人部屋に8人が入っています。それから摂食障害、知的障害、身体障害、精神障害などいろいろな障害を持った人がいます。また栃木刑務所の20%は外国人でした。
 このように多様な受刑者がいるのに、日本は明治40年に刑法ができてから、名前こそ変わりましたが中身は未だに変わっていません。時代に対応していないと言えます。

 万引きも薬物も、当事者が云うのですから間違いないのでしょうが、万引きでも、薬物依存でも病症として盗んだり、薬物に手を出したくなるのだそうです。日本では、最初は執行猶予がつきますが、病気ですから執行猶予中にまた繰り返してしまうんです。すると今度は刑務所に収監されることになります。そして刑務所から出ても、病症ですから、また同じ繰り返しをし、再犯を重ねることになります。女子刑務所の場合は、何と薬物の再犯率は65.8%という高さです。

 法務大臣には「もっと医療とか、福祉とか、あるいは地方自治体との連携を取ってください」と頼みました。さもないと刑務官だって大変です。刑務官は柔道や剣道などの訓練を受けた人が多いんですが、介護や看護の訓練は受けていませんよね。その人たちが、障害や病気を持った受刑者の面倒をみているわけです。

 女性刑務官は特に大変だそうです。男子刑務所の男性刑務官は50歳過ぎまでいる人も多いんですが、女性はあまりに大変なので30歳になる前に辞めてしまう。したがって、女子刑務所のトップが30代になってしまいます。しかも女子刑務所は刑務官が全部が女性です。これもおかしいと思いました。
 その後、私達が、女子刑務所に男性の刑務官がいないのはおかしい、と言い続けたところ、最近は男性刑務官も増えてきたようです。女子刑務所が先行ですが、福祉や医療の知識のある臨時の職員も入るようになってきました。

【「再犯防止推進法」という新しい法律】

 私たちが一生懸命、地方自治体と刑務所をつなぐ努力をしたことも影響して、2016年に再犯防止推進法という新しい法律が議員立法で成立しました。この法律は日本ではじめて地方自治体が再犯防止の責務を持つというものです。ですから、地方自治体も刑務所を出所した人の受け皿をつくらなくてはなりません。

 例えば刑務所を出てきて住民票がないと生活保護の手続きもできず、本当に困るわけですよね。住民票を取るのに3ヶ月くらいかかりますが、その間に再犯をしてしまう。薬物にしても受け皿がなく、悪循環が起こっていたわけです。だから推進法では刑務所に入っている間に、生活保護が必要なら生活保護、介護の支援が必要なら介護の認定を行うように、出所後の準備を地方自治体が行うことを求めています。
 2016年12月に再犯防止推進法が成立したのを受けて、翌、2017年2月に関係11省庁、有識者9人からなる再犯防止推進計画の検討会が始まり、私も参加しました。その検討会で専門家から、「薬物依存症の治療回復に、諸外国においては病院や医療施設だけではなくて治療共同体が主流。治療共同体は、スタッフに元薬物依存者が多い」との報告がありました。まさにダルクは、当事者による共同体ですね。

 当事者ではない私には、具体的に実際のことは分かりません。だから失礼なことを言っていたらごめんなさいね。
 外国の場合だと、経験者が実際に治療共同体の運営をしたりスタッフとして働いていたりします。しかし日本には、ダルクを除けばほとんど治療共同体やリハビリ施設がありません。少なくとも、公(おおやけ)の施設はありません。

 昨年、アメリカの薬物依存の施設を視察する機会がありました。そこで見たアメリカと日本の一番の違いは、違法な薬物を使った人に対して、アメリカでは刑務所か治療共同体かという選択肢があることでした。もう一つは、精神障害や薬物依存症などの出所者の受け皿として、社会復帰を目指す公の施設があることです。私はそれらを実際にアメリカで見て、日本と海外とのあまりにも大きな違いにショックを受けました。同様のしくみはヨーロッパにも、南米にも、アジアにもあると聞いています。なぜ日本にないのかということですよね。

【「ダメ。ゼッタイ。」は止めるべき】

 日本では「ダメ。ゼッタイ。」というのが、厚生労働省や文部科学省の標語です。それは薬物依存症になってしまった人に「人間失格」のような烙印を押してしまう。芸術家になるかもしれない、コンピューターの開発をするかもしれない、素敵なお母さんになるかもしれない、そんな様々な人の可能性を、初期の薬物依存症の段階で潰してしまっているのが日本の現状だと思います。

 先日、「愛の基金」のシンポジウムに厚労省、法務省、文科省、国交省がパネリストとして登壇したのですが、そこで私が言わせてもらったことは「ダメ。ゼッタイ。」というスローガンは止めてください、ということでした。「当事者は加害者ではない、被害者がいるわけではない、その人たちに人間失格のような烙印を押さないで下さい」と、特に厚労省と文科省に云いました。

 昨年に、国連が制定した「薬物乱用不法取引防止国際デー」がありました。そこのスローガンは、「Support. Don‘t Punish 処罰するより支援を!」でした。

【「再犯防止推進法」実施計画の可能性】

 アメリカから帰ってきた後、まだ検討会が続いていたので、大胆に発言しました。私は刑事司法の専門家ではありませんから、ある意味では法務省に対して一般の市民の感覚で提言、要請することができるので、「薬物依存症の人たちへの治療と回復のシステムづくり」と、「刑務所か治療共同体を選べるような、治療回復的な司法」について諸外国の先進事例を参考にして日本でも検討すべきなのではないか、と訴えました。

 その結果、以下のように内容が実施計画に書き込まれました。

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「海外において薬物依存症からの効果的な回復措置として実施されている各種拘禁刑に代わる措置も参考にしつつ、新たな取組を試行的に実施することを含め、我が国における薬物事犯者の再犯の防止等において効果的な方策について検討を行う。計画:第3-2-(2)-①-エ」
「海外において薬物依存症からの効果的な回復措置として実施されている刑事司法と保健医療・福祉との連携の在り方について調査研究する必要があること、(中略)などが指摘されている。計画:第3-2-(1)」
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 これからどのように展開するか分かりませんが、日本のお役人は計画に一度書き込まれると実行するので、何らかの形で少しずつ変わっていくのではないかと思っています。

【おわりに】

 私は薬物依存症の問題に関わってまだ日が浅いのですが、何とか日本における薬物依存症の問題を変革したい、と考えてきました。まず思ったことは、僭越ですが誰もが薬物依存の人を差別をしない、排除をしない、同じ人間同士としての優しさを持ち合うことの大事さです。それによって一緒に生きていける、そんな地域社会を作ることだと思っています。

 日本は、この分野における、人としての優しさと科学的なエビデンスの両方が不足していると感じますし、国としての責任を果たしていないと思います。これからも皆さんと一緒にこの問題に取り組んでいきたいと考えています。

4)鼎談「「薬物依存からの回復」と寄り添い、歩く」

登壇:田代さん、堂本さん、関野さん、奥田裕之(司会)

 続いては皆さんの鼎談です。まずお互いへの感想から始まりました。

【それぞれの“役割”】

田代さん

 ぼくたち一人一人の力はものすごく弱いですから、堂本さんのように経験者ではないのに力になってくれる方がいらっしゃるのは、とてもありがたいです。例えば、ダルク代表の近藤が法務省の方に訴えかけて、やっと信頼関係ができても、その人がすぐ異動になるんですよ。

堂本さん

 私は、いろいろなことをテーマに活動してきたんですが、最後のライフワークがこの問題だと思っています。天命っていうか、ジャーナリストを30年やり、12年国会議員をやり、県知事を8年やった経験を経て、85歳になってやっとできることなのかなと思っています。国会議員をすると法務省と話し合えるし、地方自治体には知事の体験が役に立っています。それと、決して上から物を見ない、というジャーナリストしての視点が相まって私の活動の原点になっています。でももう少し続けるためには、できるだけ長く生きないと駄目ね。

田代さん

 歌手のつんく君が喉の手術をしたとき「いまのぼくに出来ること、ぼくにしか出来ないことを探していきたい」って言っていたんです。それを聞いたときに、「自分にもそれって当てはまるな」と思いました。「いまの俺は何をやるべきなんだろう」と考えた時に、仲間たちを助けるような、そんな役割があるかもって思いましたね。まだ回復途中なので葛藤はあるんですけど。

 近藤さんに、「海外では政治家の娘が依存症になって、その結果いろいろ法律が変わった例があるらしい。お前、政治家になれ」って言われたこともあります。「俺は無理ですよ」って言ったら、「大丈夫、お前は名前も知られてるから。その代わり政党は無所属だよ」って言うんです。「ムショゾクの漢字は、刑務所のムショだから」って、当選しないってそんなんじゃ(笑)。

関野さん

 堂本さんは法律を変えていく、そしてマーシーは現場ですよね。ぼくの役割は、法にも現場にも引っかからない浮遊している人にあるんでしょうか。そんな人々がこの界隈にはいるんですよ。ぼくが日曜日の礼拝が終わってから、スーパーに行こうと思い、革ジャンに着替えて教会と向かいの交番の前に立って携帯を見ていたんです。そうしたら、いかつい若者に「兄ちゃん、欲しい?」と声をかけられました。最初、欲しいの意味が分からなかったんですが、「(ゼスチャーを交えながら)これも、これもあるよ」って言うんです。教会と交番の前でですよ。

 あと、近くに薬物中毒で妊娠した女性が出産できる精神科の病棟があって、そこから女性が聖書を見たがってきるから来てくれって電話があったんです。そこに聖書を持っていったら、1,600ページある聖書の全頁を、かみそりや粉が入っていないかドクターがチェックをするんです。300ページ位でドクターの手が疲れているのが分かったんで、ぼくは言ったんです「ドクター、聖書は人を生かすことはあっても、殺すことはないよ」って。そうしたら、ドクターが「アーメン」と言ってバタッと聖書を閉じたんです(笑)。

【実態から社会を変える】

堂本さん

 日本は、刑法そのものはなかなか変わらない国なんです。むしろ実態から変えていくことが大切です。先ほどの再犯防止推進法の計画の、「刑務所に入ること以外の刑のありかたを研究したらどうか」という表現は非常に弱いけど、それが書かれるのと書かれないとでは大違いです。

 実現には何年もかかるかもしれませんが、刑務所と地域が連携して、刑務所の中で治療的なことを行い、そのまま地域に出ても受け皿がある。そして刑務所の外に出た人は刑務所の人の治療をサポートするような仕組みが、北海道から沖縄までの各地域社会で、5年後10年後に実現するのが夢。私がもう生きていない時代でもいいから実現して欲しいと思っています。

田代さん

 根本的な部分なんですけど、本人がやめたいと思ってないとダルクに来ても意味がないところがあるんです。家族も仕事もすべてなくなって、借金だけが残ったような、本当に底辺に行かないと本当に止めようと思えないのが薬のやばいところなんですよね。もう止めなきゃ駄目だということは途中で気がついているんです。「底付き」っていうんですけど、そこまで行かないとそう思えないんです。それが、みんなが薬物を止められない理由の一つかなって思いますね。

堂本さん

 それには専門家が必要ですね。日本には精神病の専門家はたくさんいるんですが、薬物依存症、薬物中毒の専門家が非常に少ない。近くにダルクがあったり、良い病院がある人はいいのだけど、そういう施設のない人は本当に気の毒ですよね。でも教会でサポートをすれば、一人きりで悩むことはないと思うんですが、どうでしょう?

関野さん

 そうですね、刑務所を出てホームレスになる前の段階で教会に来る人がいるんですよね。窃盗癖のある人、アルコール依存症、薬物依存症の人、いろいろです。その人たちは自分のことを言う場所がないですよね。お医者さんへ行っても聞いてもらえるのは3分くらいです。ぼくは45分取るようにしています。今日はちょっと勘弁して欲しいんですけど、いつでも来て欲しいし、(田代さん、「時間を選ぶんじゃない!(笑)」)。いや、そういう教会を目指したいと思ってます。

【苦しみの中から見出すもの】

堂本さん

 私は、仏教のお坊さんもそうかもしれないのですが、牧師さんの役割があると思うんです。ある窃盗症を持つ人がこう言っていました、「まるで自分は海に落ちたみたいだ、溺れていて、助けてもらいたくて手を水から出しても、手を取って陸にあげてもらえない」、「だけど、同じように窃盗症で溺れている人がいて、そこで出会うことができたら、それだけで癒やされるんだ」。それほど人との出会いが救いなのだっていうことを、その窃盗症の人から教えてもらいました。

 障害を持ったり、病気になったり、このような体験をしたことによって、時として内面がとても深まる人がいます。自分にはそういう体験がないので、こんな言い方しか出来ないのですが、大変な体験を経て、単なる精神性やスピリチュアリティじゃなくて、具体的な治療や心理学のカウンセリングの限界を超えた、もっと自分の魂みたいな深いもの・自分の本質に出会う、そういう人がいるのじゃないかと思うんです。

 だから、私は薬物依存症、薬物中毒の人、刑務所から出てきた人、障害者の人などを下に見る人が嫌なんです。そこには、時としてドキッとするような優しさや深さを持っている人がいるんですよね。苦しみの中から、自分の魂に出会うことがあるんだろうって思うのね。そういう意味で、薬物依存症の方へハーム・リダクション(個人や社会がもたらす危害を軽減するための実践)を行う宗教者の人がいることは、さして不思議なことじゃないと思います。

関野さん

 教会での集まりって「共犯者の集い」って言うんです。教会に集まっている人って聖人君主みたいなイメージがあるんですけど、キリストが言ったのは「俺たち共犯じゃん」ってことです。キリストは、詐欺師のお金で飲み食いしたりパーティしちゃったり、世の中のありとあらゆる人間と一緒にいたんですよね。そして、最後は自ら罪人の先頭に立って殺されちゃった。だから十字架の前に立つっていうのは、「俺も同じだから気にすんなよ」ってことなんだと思います。

田代さん

 こないだ中学校に講演に行った時に話したことなんですが、ぼくが薬をやめようって考えた時、一番仲が良かった鈴木雅之にもどうしても相談できなくって、自分の力で解決しようって思ったんです。でも今になって思うのは、何でも話せる友だちでいるべきだったんだなっていうことです。遠慮だとか、彼にこのことを伝えたら悲しむだろうとか、そういうのをもっと超えた友だちを作るべきだった。
 ぼくもそれが出来なくてこうなったんですけどね。環境によって違うだろうから、それは親かもしれないし、友だちかもしれないんですけど、若い人にそういうことを伝えたいと思いました。

 鼎談の後、ビッグイシューの販売者の方と日本ダルクの高橋さんからコメントをいただきました。

ビッグイシュー販売員さん

 自分も昔に似た経験があるので今日はとても勉強になりました、本当に。また機会があったら教会に来てみたいと思います。どうもありがとうございました。

高橋さん

 マーシーはいつも一緒にいるので改めてという感じではないんですが、堂本さんのお話を聞いて、本当に味方だなって思ってすごく嬉しかったです。これから日本の法律が、いろいろな部分で変わっていったらいいなと思いました。それをこうして堂本さんに直接伝えられたことも良かったと思っています。
 牧師さんも、ハーム・リダクションのお話とかいろいろなことを理解しようと勉強されていることを聞いてとても嬉しく思いました。これからもよろしくお願いします。どうもありがとうございました。

 最後に田代さんの歌、関野さんのギターで1曲演奏、曲は「恋の特効薬(Love Potion Number Nine)」。今年も大拍手の中で終了しました。

 薬物依存をテーマにした第2回も、とても充実した内容になりました。犯罪の話ではなくて、“人間”と人が持っている可能性と希望についてのお話でしたね。(文責;奧田)

*「第1回;依存症問題、孤立から共生へ ―おかえりマーシー」レポート
http://machi-pot.org/modules/fund_luther/index.php?content_id=9

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