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厚生労働省、「ヤングケアラー」を集中的に支援 モデル事業実施へ

 いわゆる「ヤングケアラー」について、国(厚生労働省)は来年度から、家事の支援や相談先の確保などを行うモデル事業を始めるために、必要な費用を来年度予算の概算要求に盛り込んでいる。この国の動きや厚生労働省のサイト「ヤングケアラーについて」、そして条例策定や実態調査などの最近の動きを報告する。

1.マスコミの報道

 以下は2021年9月17日のNHKの報道である。

▽ ▽ ▽

家族の介護や世話などをしている子どもたち、いわゆる「ヤングケアラー」について、国は来年度から、家事の支援や相談先の確保などを行うモデル事業を始め、3年間かけて集中的に支援する方針です。

家庭で両親や祖父母、きょうだいの介護や世話などをしている子どもたちは、「ヤングケアラー」と呼ばれ、国の調査では中学2年生のおよそ17人に1人、全日制の高校2年生のおよそ24人に1人が「世話をする家族がいる」と回答しています。

厚生労働省は、来年度から3年間かけてヤングケアラーを集中的に支援しようと、来年度、自治体と協力してモデル事業を行う方針を決めました。

具体的には、

▽相談を受けて福祉サービスにつなぐコーディネーターの配置や、

▽家事やきょうだいの育児を支援するヘルパーの派遣、

▽子どもたちがSNSなどで悩みを共有できる機会の確保など、先進的な取り組みを行う自治体に対して、費用の半額から全額を補助します。

また、

▽ヤングケアラーを早期に発見するための関係機関の研修や、

▽支援のニーズを把握するための実態調査などにも補助を行うということです。

厚生労働省は、必要な費用を来年度予算の概算要求に盛り込んでいて、モデル事業の成果を踏まえて、再来年度からの支援体制を検討することにしています。

2.ヤングケアラーの支援等に関する令和4年度概算要求について

 ヤングケアラーの支援等に関する令和4年度概算要求については、マスコミ報道とも重なるが、その概要と概算要求を以下に示す。

<ヤングケアラーの支援に向けた令和4年度予算概算要求の概要>

1.現状と課題

 ○早期発見・把握

・ 地域での実態を踏まえ、きめ細やかな支援を行う必要があるが、地方自治体での実態把握が不十分。

・ 福祉、介護、医療、学校等、関係機関におけるヤングケアラーに関する研修等は十分でなく、ヤングケアラーの概念の認知度も高くない。

○相談支援など支援策の推進

・ ヤングケアラーに対する具体的支援策、支援につなぐための窓口が明確でない。

・ 世話をしている家族が「いる」中高生の6割以上が相談した経験がなく、支援者団体等が運営する相談窓口につながっていない可能性がある。

・ 子育て世代家庭への家事や子育てを支援するサービスが不足している。

○社会的認知度の向上

・ ヤングケアラーの社会的認知度が低く、支援が必要な子どもがいても、子ども自身や周囲の大人が気付くことができない。中高生の8割以上がヤングケアラーについて、「聞いたことがない」と回答しており、適切な支援につなげるためには社会的認知度の向上が重要。

2.対応方針

 ○ ヤングケアラー支援体制強化事業の創設【新規】

➢ ヤングケアラーの実態調査・支援研修の推進

・ 実態調査又は福祉・介護・医療・教育等の関係機関(要対協構成機関も含む)職員がヤングケアラーについて学ぶための研修等を実施する地方自治体に対して財政支援を行う。

➢ ヤングケアラーの支援体制の構築(モデル事業の実施)

・ 地方自治体におけるヤングケアラーの支援体制を構築するため、モデル事業として、地方自治体に関係機関と民間支援団体等とのパイプ役となる「ヤングケアラー・コーディネーター」を配置 / ピアサポート等の悩み相談を行う支援者団体への支援 / ヤングケアラー同士が悩みや経験を共有し合うオンラインサロンの設置運営・支援 等に財政支援を行う。

○ ヤングケアラー相互ネットワーク形成推進事業の創設【新規】

・ 表面化しにくいヤングケアラーの孤独・孤立を防ぎ、継続した相談・支援体制を構築するため、民間団体等で全国規模のイベントやシンポジウム等を開催し、地域ごとの当事者、支援者同士の相互交流を促すことにより、ヤングケアラーの相互ネットワークの形成を図る。

○ 子育て世帯訪問支援モデル事業の創設【新規】

・ 幼いきょうだいの世話等のため子どもらしい生活を送ることができないヤングケアラーや育児等に不安を抱える家庭に対して育児支援ヘルパーを派遣し、傾聴による相談支援、家事・育児支援等を行う。

○ ヤングケアラーに関する社会的認知度の向上 【拡充】 ※児童虐待防止対策等推進事業委託費に計上

・ 令和4年度から令和6年度までの3年間を「集中取組期間」として、中高生の認知度5割を目指し、ヤングケアラーの社会的認知度の向上に向けた集中的な広報啓発を実施。

<概算要求)

〇 ヤングケアラー支援体制強化事業 【 新 規 】 

(ヤングケアラー実態調査・研修推進事業)

概算要求:364億円の内数(児童虐待・DV対策等総合支援事業)

〇 ヤングケアラー支援体制強化事業 【 新 規 】

(ヤングケアラー支援体制構築モデル事業 )

概算要求:364億円の内数(児童虐待・DV対策等総合支援事業)

〇 ヤングケアラー相互ネットワーク形成推進事業【新規】

概算要求:0.1億円(ヤングケアラー相互ネットワーク形成推進事業)

〇 子育て世帯訪問支援モデル事業(仮称) 【 新 規 】

    概算要求:364億円の内数(児童虐待・DV対策等総合支援事業)

〇 児童虐待防止対策等推進事業委託費 【 拡 充 】

R3予算:0.8億円 → R4概算要求:2.1億円(児童虐待防止対策推進事業委託費)

3.相談窓口

 厚生労働省のサイト「ヤングケアラーについて」に相談窓口が掲載されている。以下、窓口の名称ダイヤル番号等を掲載する。

● 児童相談所相談専用ダイヤル

  フリーダイヤル0120-189-783(いちはやく・おなやみを)

  ※令和3年7月から無料化

● 24時間子供SO Sダイヤル(文部科学省)

  フリーダイヤル 0120-0-78310(なやみいおう)

● 子どもの人権110番(法務省)

  電話番号:0120-007-110

● 日本精神保健福祉士協会「子どもと家族の相談窓口」

  Eメール対応:kodomotokazoku@jamhsw.or.jp

● その他相談先や情報検索サービス(名称のみ掲載)

 ・ 生活困窮に関する相談について 「自立相談支援機関 全国相談窓口一覧」

 ・ 障害福祉サービス等の情報について 「障害福祉サービス等情報検索」

 ・ 障害者や障害児に対する介護等の相談について

 ・ 介護サービス事業所の情報について 「介護事業所・生活関連情報検索」

 ・ 高齢者介護の相談について 「地域包括ケアシステム 地域包括ケアセンターについて」

● ヤングケアラー当事者・元当事者同士の交流会、家族会など

・ ふうせんの会 https://peraichi.com/landing_pages/view/balloonyc/

 ・ 公益社団法人 全国精神保健福祉会連合会(みんなねっと)https://seishinhoken.jp/

 ・ みんなねっとサロン https://minnanet-salon.net/service

 ・ 精神疾患の親をもつ子どもの会(こどもぴあ)

   東京(外部リンク)https://kodomoftf.amebaownd.com/

ほかに、大阪、札幌、福岡、沖縄の外部リンクがある

 ・ シブコト 障害者のきょうだいのためのサイト https://sibkoto.org/

 ・ 全国きょうだいの会(全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会) https://www.mhlw.go.jp/stf/young-carer.html

 ・ Yancle community(ヤンクルコミュニティ) https://yancle-community.studio.site/

● ヤングケアラーの支援に向けた福祉・介護・医療・教育の連携プロジェクトチーム

  厚生労働省に設置 https://www.mhlw.go.jp/stf/young-carer-pt-01.html

● ヤングケアラーに関する調査研究事業

 ・ 令和2年度 ヤングケアラーの実態に関する調査研究 (三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社)

 ・ 令和元年度 ヤングケアラーへの早期対応に関する研究 (三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社)

 ・ 平成30年度 ヤングケアラーの実態に関する調査研究 (三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社)

● ヤングケアラーについて(文部科学省) https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1387008_00003.htm

・ ヤングケアラーの支援に向けた福祉・介護・医療・教育の連携プロジェクトチームについて

・ ヤングケアラーの実態に関する調査研究について

・ ヤングケアラーを含む心の悩みの相談窓口について

・ 文部科学省における教育相談体制の充実について

4.自治体の動向

(1) 条例の策定

 現在策定されているケアラー支援に関する条例は、以下の4条例がある(一般社団法人地方自治研究機構による)。

 〇埼玉県ケアラー支援条例 令和2年3月31日公布      同日施行

 〇北海道栗山町ケアラー支援条例 令和3年3月19日公布 令和4年4月1日施行

北海道栗山町は、全国市区町村で初めて、ケアラー支援に関する条例

 〇三重県名張市ケアラー支援の推進に関する条例 令和3年6月30日公布 同日施行

 〇岡山県総社市ケアラー支援の推進に関する条例 令和3年9月9日公布 同日施行

 ここでは、最も新しい総社市ケアラー支援の推進に関する条例について、その内容をみておきたい。条例は次のように構成されている。

目的(1条)、定義(2条)、基本理念(3条)、市の責務(4条)、市民等の役割(5条)、事業者の役割(6条)、関係機関の役割(7条)、学校等の役割(8条)、ケアラー支援に関する基本方針等(9条)、広報及び啓発(10条)及びその他(11条)の全11条

 課題は、ケアラーの定義だと私は考える。条例では、次のようにケアラーとヤングケアラーとを分けて定義されている。そしてヤングケアラー支援との関係で「学校等の役割」を定めている。

<定義>

 (1) ケアラー 市民等のうち,高齢,身体上若しくは精神上の障がい又は疾病等により援助を必要とする親族,友人その他の身近な人に対して,無償で介護,看護,日常生活上の世話その他の必要な援助を提供する者をいう。

(2) ヤングケアラー ケアラーのうち,18歳未満のものをいう。

<学校等の役割>

(1)関係機関のうち,学校その他教育に関する業務を行うもの(以下「学校等」という。)は,日常的にヤングケアラーに関わる可能性がある立場にあることを認識し,関わりのある者がヤングケアラーであると認められるときは,当該ヤングケアラーの意向を尊重しつつ,ヤングケアラーの教育の機会の確保に係る状況,健康状態及びその置かれている生活環境等を確認し,支援の必要性の把握に努めるものとする。

(2)学校等は,支援を必要とするヤングケアラーからの教育又は福祉に関する相談に応じるとともに,ヤングケアラーに対し,情報の提供,適切な他の関係機関への案内又は取次ぎその他の必要な支援を行うよう努めるものとする。

 総社市は、ホームページ「ケアラー支援について」を開設し、市民に対する啓発に努めている。ホームページでは「日本ケアラー連盟」の下図の解説も紹介しているが、条例施行が行われたばかりなので、実際には今後の取り組みに期待したい。

(2)ヤングケアラーの実態調査

9月14日の毎日新聞は、「北海道が道内の中高生約5万人を対象にアンケートした結果が13日、明らかになった。」としてその内容を報道している。それによれば、「回答を得た約1万1200人のうち「世話をしている」は約3・5%に当たる約400人。認知度は1割程度にとどまり、過半数の学校で対応をとっていない実態も浮かんだ。識者は「認識を広げた上で、支援が必要」と指摘する。」としている。

 また札幌市におけるヤングケアラー実態調査の実施については、次のようなスケジュールになっている。

<スケジュール概要>

7月:庁内における調査項目等の検討

8月:子ども・子育て会議(児童福祉部会)での審議

秋頃:実態調査の実施

令和3年9月24日(金)に開催された「令和3年度第4回札幌市子ども・子育て会議

児童福祉部会」において「ヤングケアラーの実態調査について」が議題とされた。資料には以下の記載がある。

<生徒への調査協力依頼の流れ>

(1) 学校において、生徒へ調査協力依頼文を配布

(2) 配布時に、学校から調査の趣旨等を説明

(3) WEB環境にない生徒に、紙媒体の調査票を配布

(4) 自宅において、パソコン・スマートフォン等から回答

 今後の実態調査とその結果に注目したい。

▽  ▽  ▽

 他の自治体においても、事態調査が行われていくことと思う。その事態調査、とりわけ地域の事態を踏まえた「必要な支援」が望まれる。

<参考資料>

■「ヤングケアラー」を集中的に支援 モデル事業実施へ(9月17日、NHK)https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210917/k10013263741000.html

■ ヤングケアラーの支援等に関する令和4年度概算要求について

(厚生労働省、文部科学省) https://www.mhlw.go.jp/content/11907000/000831374.pdf

■ ケアラー支援に関する条例(一般社団地方自治研究機構)http://www.rilg.or.jp/htdocs/img/reiki/023_carersupport.htm

■ 総社市はホームページ「ケアラー支援について」 https://www.city.soja.okayama.jp/kodomo/iryou_fukushi/keara-shien.html

■ 中高生3.5%がヤングケアラー 過半数の学校で対応なく 北海道

(毎日新聞 2021/9/14) https://mainichi.jp/articles/20210914/k00/00m/100/023000c

■ 北海道におけるケアラー実態調査の実施及び実施結果について(保健福祉部) https://www.pref.hokkaido.lg.jp/hf/khf/77409.html

■ ヤングケアラーの実態調査について(令和3年7月5日(月)令和3年度第2回札幌市子ども・子育て会議児童福祉部会 資料 https://www.city.sapporo.jp/kodomo/jisedai/kosodatekaigi/documents/r3-2jidoufukushibukaishiryo2-1.pdf