市民による豊かな地域社会づくりを応援します

  1. Home
  2. /
  3. 調査・研究
  4. /
  5. まちぽっとリサーチ
  6. /
  7. 脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律の施行にあたって

脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律の施行にあたって

伊藤久雄(NPO法人まちぽっと理事)

 今年(2021年)6月、民間建築物の木材利用を後押しする改正公共建築物木材利用促進法が成立した。改正法は、「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」に名称も変わり、10月1日に施行された。

 本稿では、改正法を踏まえた東京都と都内市区町村の取り組みを提起したいと思う。


1.炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律

(改正木材利用促進法)の成立と概要(林野庁HP)

 「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」(平成22年法律第36号)は、平成22年5月26日に公布され、同年10月1日に施行された。

本法律に基づき、農林水産省及び国土交通省は、公共建築物における木材利用に関する基本方針を策定し、政府一体となり、公共建築物における木材の利用の促進に取り組んできた。こうした中、公共建築物の床面積ベースの木造率は、法制定時の8.3%から令和元年度には13.8%に上昇している。

一方で、民間建築物については、木造率の高い低層の住宅以外にも木材の利用の動きが広がりつつあるものの、非住宅分野や中高層建築物の木造率は低位にとどまっている。

また、2050年カーボンニュートラルの実現に貢献するためには、「伐って、使って、植える」という森林資源の循環利用を進めることが必要不可欠である。

こうしたことを背景として、第204回通常国会において、「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律の一部を改正する法律」(令和3年法律第77号)が成立し、令和3年6月18日に公布された。

今般の改正により、法律の題名が「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」に変わる。また、木材の利用の促進に取り組む対象が、公共建築物等から民間建築物を含む建築物一般に拡大される。

改正法の施行日は、今年の木材利用促進月間の始まりに合わせ、令和3年10月1日。農林水産省では、関係省庁はもとより、地方公共団体や関係団体等と連携し、建築物におけるさらなる木材利用の推進に取り組んでいく。

<主な改正内容>

●法律の題名、目的の見直し

題名を「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」に改め、目的について「脱炭素社会の実現に資する」旨を明示する改正を行うとともに、木材利用の促進に関する基本理念を新設する。

●公共建築物から建築物一般への拡大

基本方針等の対象を公共建築物から建築物一般に拡大する。また、建築物における木材利用を進めていくため、国または自治体と事業者等が建築物木材利用促進協定を締結できるという仕組みを設け、国または自治体は協定締結事業者等に対して必要な支援を行う。

●木材利用促進本部の設置

政府における推進体制として、農林水産省に、農林水産大臣を本部長、関係大臣(総務大臣、文部科学大臣、経済産業大臣、国土交通大臣、環境大臣等)を本部員とする木材利用促進本部を設置し、基本方針の策定等を行う。

●「木材利用促進の日」、「木材利用促進月間」の制定

国民の間に広く木材の利用の促進についての関心と理解を深めるため、漢字の「木」という字が「十」と「八」に分解できることにちなみ、10月8日を「木材利用促進の日」、10月を「木材利用促進月間」として法定化し、国等は普及啓発の取組を行う。

2.基本方針

建築物木材利用促進本部は、「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」に基づき、令和3年10月1日に、「建築物における木材の利用の促進に関する基本方針」を定めた。今後、「この基本方針に基づき、政府一体となり、建築物における木材の利用を促進していく」としている。

 

<「建築物における木材の利用の促進に関する基本方針」の概要>

(1)建築物における木材の利用の促進の意義及び基本的方向

国産材の利用拡大は、林業・木材産業の持続性を高め、森林の適正な整備、地域経済の活性化、脱炭素社会の実現に資すること等から、国は、地方公共団体、事業者、国民と相互に連携・協力を図りつつ、基本理念を踏まえ、非住宅建築物や中高層建築物を含む建築物全体での木材の利用を促進していく。

(2)建築物における木材の利用の促進のための施策に関する基本的事項

木造建築物の設計・施工に関する先進的な技術の普及や人材育成、建築用木材・木造建築物の安全性に関する情報提供を図るとともに、建築物木材利用促進協定制度に基づく取組を支援すること、公共建築物において率先して木材の利用を図ること、建築基準の更なる合理化等に取り組むこと等により、建築物における木材の利用を促進していく。また、木材利用促進の日(10月8日)や木材利用促進月間(10月)に重点的な普及啓発等を行い、木材利用の促進を国民運動として進めていく。

(3)国が整備する公共建築物における木材の利用の目標

国が整備する公共建築物においては、製材等のほか、CLT、木質耐火部材等を活用しながら、コスト・技術面で困難な場合を除き、原則木造化、内装等の木質化を推進する。

(4)建築用木材の適切かつ安定的な供給に関する基本的事項

木材の供給に携わる者による木材の適切かつ安定的な供給に向けた取組、CLT等の強度等に優れた建築用木材の製造技術の開発等を促進していく。

3.東京都の取組み

(1) 東京都における公共施設への多摩産材利用促進プロジェクト事業

 東京都がすすめる「公共施設への多摩産材利用促進プロジェクト事業」は、区市町村が整備する施設において、多摩産材等を利用した木造化や内装木質化、木製什器、木製外構施設等の整備を支援することにより、木の良さや木の価値を広く発信し、多摩産材等の利用拡大を図るものである。

<概要>

〇 支援対象者

  都内の市区町村

※「公共建築物等における木材利用の促進に関する法律」の規定に基づき、当該市区町村の区域内の公共建築物における、木材の利用の促進に関する方針を策定済みの区市町村とする。(木製外構施設の整備については、方針の策定は不要としている)

〇 対象施設

  都内に所在する区市町村立施設

(小・中学校、児童館、図書館、博物館、公園、陸上競技場、体育館、病院、保健センター等)

〇 補助金額

  ・補助対象経費の2分の1以内

・補助金額の上限は1区市町村あたり3,000万円(本事業実施期間(H30年度~R4年度)の5年間通算)

・2年間(令和3年度着手・令和4年度完了)の事業も補助対象

(2)  製品展示商談会(モクコレ)

 東京都は、木材の大消費地である東京でのさらなる木材利用の拡大に向けて、東京だけでなく日本各地の地域材を活用した建材や家具などの製品展示商談会(モクコレ)を2015年度(平成27年度)から開催している。

 令和元年度には、41都道府県から268事業者が参加している。

(3) 今後の課題

 都道府県方針は、「基本方針に即して定めることができる」という「できる規定」であるが、改正法で変わったところはだだ1か所、以下の下線をふった個所である。つまり、公共建築物における木材の利用の促進関する方針が、民間もふくむ建築物全般の木材の利用の促進関する方針に変わったわけである。

<旧法 第11条>

 都道府県知事は、基本方針に即して、当該都道府県の区域内の公共建築物における木材の利用の促進に関する方針を定めることができる。

<改正法 第11条>

 都道府県知事は、基本方針に即して、当該都道府県の区域内の建築物における木材の利用の促進に関する方針を定めることができる。

 東京都は先述のように、「公共施設への多摩産材利用促進プロジェクト事業」に取り組んでいる。この事業を踏まえて、改正法に基づく民間事業への事業拡大をどうするかが課題である。少し資料は古いが、林野庁はウッド・チェンジ・ネットワーク第1回会合における説明資料「民間建築物等における木材利用の現状と展開」(平成31年2月27)日において、「木造化を図るターゲットと課題」を次のように指摘している。

  • 建築物への木材利用の促進に向け、低層(3階建て以下)の非住宅(木造率14%)、木造化の進んでいない中高層の住宅・非住宅(木造率0.04%)における木材利用が課題。
  • これら建築物において木造化が進んでいない原因を施主目線で検討・分析し、サプライチェーン全体の連携の下で課題解決に向けた方策を検討・発信することで、建築物における木材需要の創出を図ることが必要。

 このように、民間建築物への木造利用の促進は容易な課題ではない。東京都としてどのように取り組むのか、現在のプロジェクトの事業期間が終了する令和5年度以降の取り組みについて十分な議論が必要だと思われる。特に政府が提起している「事業者との建築物木材利用促進協定」や「事業者に対する支援」、現行の市区町村支援(補助金)の継続内容などが課題になると思われる。

4.都内市区町村の取組み

(1) 取組みの現状

 都内市区町村の「公共建築物等における木材利用推進方針の策定状況」(2021年9月9日検索)は別紙のとおりである。区部で7区、多摩地域で6市1町である。多摩地域ではこのほか、あきる野市の森林整備計画、日の出町の木質・木材産業推進基本構想などに公共建築物等への木材利用を定めたものがある。なお多摩地域の条例は「多摩産材」を条例名に入れた自治体が多いことが特徴である。

 また、地球温暖化対策等の計画に木材使用を盛り込んだものもある。一、二例をあげる。

<目黒区 地球温暖化対策地域推進計画>

(7)木製品等の購入等

① 「公共建築物における木材の利用の促進に関する法律」に基づいて、可能な範囲で     

 木製品の備品購入等を行う(購入の依頼を含む。)。

② 森林環境譲与税(仮称)を活用した木製品等の利用等を行う。

<調布市 都市計画マスタープラン>

 第2節 実現のための施策 施策① 住宅,住環境のバリアフリー化の促進

  ●公共建築物等における木材利用推進を通じて,森林の適切な整備・保全及び健全な育成を図るとともに,木材の特性を生かした快適な公共空間の創出や温暖化対策を推進する。

(2) 今後の課題

 市区町村における法改正後の方針策定は、東京都の課題で述べたのと同様である。市区町村にはすでに述べたように、かなり多くのところで「公共建築物等における木材利用推進方針」が策定されている。今後はこれまでの取り組みを検証しながら、改正法を踏まえて市区町村として何ができるのか、地域の事態を踏まえた議論が必要である。

 また方針未策定の自治体は、方針策定を進めていくのか否かもふくめた課題がある。策定するとしても、実効性のある方針としていくためには、とりわけ民間建築物もふくめた方針を策定するとしたら、東京都以上に十分な議論が求められる。東京都がどのような方針を打ち出すのか、特に支援(補助金)がどのようになるのか、その動向も踏まえた検討が必要である。

  •  ▽  ▽

ところで、都道府県方針、市区町村方針とも法律との関係では「できる規定」である。実は最近、今井照氏が「国法によって策定要請される自治体計画リスト」と題する論考を月刊自治総研9月号に掲載された。論考は長文なのですべてを紹介できないが(Web上で全文を読むことができる)、「問題の所在」としてまとめられているところを簡潔に、要約しながら紹介したい。

………………

 法律、通知、補助金要綱などによって、国が自治体に対して計画策定を要請することがどうして問題になるのかをここで簡潔にまとめておきたい。(中略)

 この問題は自治体側からは業務負担増として、国政側からは「規制改革」として取り上げられてきた。しかし、法律、通知、補助金要綱などによる国から自治体への計画策定要請はもう少し大きな図柄で描くべき課題を含んでいるのではないか。

行政計画論については西尾勝による重厚な考察があり、行政管理のツールとして計画が持つ重要性は改めて触れるまでもない。行政体においても企業体においても、あるいは個人においても、計画は自己を律する規制として機能する。そのこと自体には疑問の余地はないように思われる。

だが国政のように、この問題を「規制改革」として取り上げるということは、自治体に要請される計画策定が異なる主体間での係争に結び付くことを意味する。つまり計画策定を要請する側と、実際に計画を策定し実施する側とが異なる主体であり、その主体間の関係が計画策定過程そのものに影響することになる。そこにコンフリクトが発生する。

 第一の問題は、これまでも語られてきたように業務負担増である。計画策定そのものはどのような場合においても業務負担になることは明らかだが、それが当事者に負担感を生じさせているということは計画策定の意義が自己のうちに回収されていないことを意味する。

 第二の問題は、その場合、計画の実効性はどのように担保できるのかという点にある。国から自治体への計画策定要請は、国の政策執行の一手段として行われている。

 第三の問題は、第一の問題や第二の問題から推測できるように、自治体ごとに計画策定を要請することを通じた国による自治体統制である。地方自治の観点から見たときにいちばん問題になるのはこの点にある。これまで見てきたように、この場合、目標を設定し計画策定を要請する側と、その目標に従って計画を策定し、それを実施する側とは異なる主体である。自己を律するために計画を立てることは計画の意義としてありうるが、この場合には外部からの「他律」となる。(中略)

2000年分権改革以降に自治体への計画策定要請が増加したのは、分権改革の「成果」を生かした新しい自治体統制手法になったからではないか。そこで次に問題になるのはこうした状況をどのように改善するかというところにある。

……………

 東京都-市区町村関係も、都の計画や補助金を介した統制の意味合いが強い。国-自治体関係もふくめて、法律、通知、補助金要綱などによる統制という課題もあることを考えながら、自治体にとって、あるいは当該地域に住む市民にとって、どのような条例、計画、方針等が必要なのか、じっくり考える契機として、今井論考は重要な提起である。

<参考資料>

脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律

 (改正法の施行日は、今年の木材利用促進月間の始まりに合わせ、令和3年10月1日)

同 (概要)

建築物における木材の利用の促進に関する基本方針の構成

建築物における木材の利用の促進に関する基本方針の概要

建築物における木材の利用の促進に関する基本方針の(本文)

公共施設への多摩産材利用促進プロジェクト事業(東京都産業労働局)

公共施設への多摩産材利用促進プロジェクト事業実施要綱

東京都公共建築物等における多摩産材等利用推進方針

東京都公共建築物等における多摩産材等利用推進方針の運用

東京都:公共施設等における多摩産材使用事例集(1)

東京都:公共施設等における多摩産材使用事例集(2)

民間建築物等における木材利用の現状と展開」(林野庁、ウッド・チェンジ・ネットワーク 第1回会合 説明資料 平成31年2月27日)

国法によって策定要請される自治体計画リスト(今井照 自治総研 2021年9月号)

■公共建築物等における木材利用推進方針等策定状況