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「公立病院経営強化ガイドライン」の方向性(中間まとめ)と今後の課題

 伊藤久雄(NPO法人まちぽっと理事)

 総務省は今年(2021年)10月6日「続可能な地域医療提供体制を確保するための公立病院経営強化に関する検討会」(以下、公立病院経営強化に関する検討会)の第1回会合を開き、第3回目の会合となる11月17日には「持続可能な地域医療提供体制を確保するための公立病院経営強化ガイドライン」の方向性について(中間のまとめ)を議論し、12月10日に公表した。

 公立病院経営強化に関する検討会の設置趣旨・目的について総務省は、『感染症への対応への視点も含めた持続可能な地域医療体制の確保に向けた取組みを進めるための方策等を検討するため』と述べている(報道資料)。

これまで、公立病院改革ガイドライン(平成19年度)や新公立病院改革ガイドライン(平成26年度)によって、公立病院を破壊してきた総務省の新たなガイドラインの方向性である。コロナ禍の中にあって、「感染症への対応への視点も含める」とはしているものの、きわめて早いスピードで議論をすすめていることに驚かされるが、この「公立病院経営強化ガイドライン」の方向性についても、とりあえずその中身を紹介し、課題を検討したいと考える。

1.公立病院経営強化ガイドラインの方向性について

  • これまでの取組み

総務省が示した公立病院改革ガイドライン(平成19年度)、新公立病院改革ガイドライン(平成26年度)に基づき、公立病院改革プランおよび新公立病院改革プランを策定し、再編・ネットワーク化、経営の効率化、経営形態の見直しなどに取り組んできた。

※平成20年度から令和2年度にかけて、193公立病院が再編・ネットワーク化に取り組み、公立病院数は943から863に減少(▲9.5%)。

また、令和2年度時点で、 94病院が独法化、 79病院が指定管理に移行しており、全部適用の382病院を含め、計555病院(65.1%)がマネジメントの強化等に取り組んでいる。

  • 公立病院の再編(削減)、独法化、指定管理移行を「マネジメント強化」と言い切るところに問題がある。
  • 課題

○人口減少や少子高齢化に伴う医療需要の変化、医師等の不足を受け、地域医療を支える公立病院の経営は、依然として厳しい状況。

○今後、医師の時間外労働規制への対応も迫られるなど、さらに厳しい状況が見込まれる。

○また、コロナ対応に公立病院が中核的な役割を果たし、感染症拡大時の対応における公立病院の果たす役割の重要性が改めて認識されるとともに、病院間の役割分担の明確化・最適化や医師等の確保などの取組を平時から進めておく必要性が浮き彫りとなった。

● 地域医療を支える公立病院の経営は厳しい状況にあることや、感染症拡大時の対応における公立病院の果たす役割の重要性が改めて認識されるというが、それは国や都道府県が必要な支援を行わず、「経営の効率化」等を進めてきたからではないかという認識が総務省にどこまであるが問題である。

(3) 対応

 新たなガイドライン策定にあたっては、限られた医師・看護師等の医療資源を地域全体で最大限効率的に活用するという視点をこれまで以上に重視するとともに、感染症拡大時の対応という視点も踏まえる必要。

※ガイドラインの策定時期については、公立病院の経営強化に向けた取組の検討や、公立病院経営強化プランの策定に着手することが可能となるよう、今年度末までに策定することを想定

● 「効率化」という従来通りの対応で可能かどうかが問題。策定時期も、この間の総務省の取組みの検証に時間をかけることが必要ではないか。

(4) 新たなガイドラインの方向性

  •  地方公共団体に対する公立病院経営強化プランの策定の要請

ⅰ) 策定時期 令和4年度又は令和5年度中に策定

ⅱ) プランの期間 策定年度又はその次年度~令和9年度を標準

ⅲ) プランの内容 持続可能な地域医療提供体制を確保するため、地域の実情に応じた、公立病院の経営強化のために必要な取組を記載するよう求める

  •  都道府県の役割の強化

・ 都道府県の役割としては、地域医療構想の策定主体としての調整機能をこれまで以上に強化することが必要

・ 特に、機能分化・連携強化については、医療資源が比較的充実した都道府県立病院等が中小規模の公立病院との連携・支援を強化していく枠組みも含め、都道府県が積極的に助言・提案していくことが重要

● これまでの「公立病院改革」から「公立病院経営強化」とガイドラインの名称を変えただけということになる懸念が強い。むしろ国等による財政支援を強化できるかが問題だと思う。都道府県立病院も課題が多いのではないかと思われ、はたして期待できるのかどうかが問題である。

(5) プランの内容のポイント

 地域医療構想の実現や地域包括ケアシステムの構築に向けて果たすべき役割を踏まえ、経営強化のために必要な取組を記載。主なポイントは以下のとおり

【ポイント①】機能分化・連携強化の推進

・ 地域の中で各公立病院が担うべき役割や機能を明確化・最適化

(特に、基幹病院に急性期機能を集約し、医師を確保した上で、それ以外の不採算地区病院等との連携を強化)

【ポイント②】医師・看護師等の確保、働き方改革の推進

・ 不採算地区病院等への医師・看護師等の派遣の強化 ・ 働き方改革の推進

【ポイント③】経営形態の見直し

・ 柔軟な人事・給与制度を通じ、医師等の確保につながる経営形態の見直し

【ポイント④】新興感染症に備えた平時からの対応

・ ①~③の取組に加え、感染拡大時に転用しやすい施設・設備の整備

● 最大の問題は医師・看護師等の確保、働き方改革(なぜ安倍政権の看板政策をかかげるのかも問題。労働環境の改革というべきでは)が問題。特に公立病院の1割近い減少、独法化の進展、指定管理病院の拡大などの合理化が問題。医師・看護師等は疲弊しており、「働き方改革」ではなく、医師・看護師等の抜本的な増員が必要。また人事・給与制度という「制度」の問題もあるが、より必要なのは給与(賃金)などの処遇改善である。

  • 今後の課題

私が考える問題点は●印として示しているので、視点を変えて「公立病院改革の取組の検証等に関する意見交換会」の概要を紹介するとともに、公立病院経営強化に関する検討会の第2回会合で「公立病院等関係者からのヒアリング及び意見交換」が行われているので、ヒアリングの内容を紹介したいと思う。

(1)「公立病院改革の取組の検証等に関する意見交換会」の概要

 今年(2021年)の4月から3回、「公立病院改革の取組の検証等に関する意見交換会」が行われている。その概要は以下のとおり。

<意見聴取の対象>

 • 伊関 友伸 城西大学経営学部教授

• 星野 菜穂子 地方財政審議会委員

 • 望月 泉 岩手県八幡平市病院事業管理者

• 八木 聰 兵庫県病院局病院事業副管理者

<主な意見>

  • 地域医療構想を踏まえた役割の明確化

  ア 公立病院における病床機能見直しに関する取組み状況

・ 公立病院における急性期から回復期への転換ニーズは、一定程度存在すると考えられる。

・ 病床機能見直しに当たっては、地域社会における自病院(伊藤注:概要版のとおりだが、意味はよくわからない)の位置づけに配慮する必要がある。

・ 形式的には急性期病床でも、実質的には回復期病床に近いものは、回復期機能を充実することで単価も上がり、人の配置も手厚くなる。実質的に必要な機能は何か、バランスをよく検討した上で、病床機能の見直しを進めることが必要。

・ 急性期を名乗らないと医師や看護師が集められない。また、回復期の地域包括ケア病床に転換しようとすると、看護師の配置基準が手厚くなるため、人を雇う必要が生じてくる。そうした職員の確保の問題が回復期への移行を阻んでいるのではないか。

  イ 地域医療構想全体に関する意見

・ 機能別病床数の見直しは一定程度進んだと言えるのではないか。

・ 地域医療構想は一般・療養病床を対象としており、公立病院病床の約1割を占める精神病床が対象外。精神医療についても、入院医療の質の向上を図るため、精神障害者の精神疾患の状態や特性に応じた精神病床の機能分化を進めることが重要

  •  公立病院における感染症への対応について

  ア 感染症対応における公立病院の役割

・ 新興感染症への対応を公立病院の役割として明確化すべきである。特に初期対応においては、治療方法も分からず、人手がかかったり収益悪化の懸念があるため、公立病院が率先して対応するべき。

・ 今般の新型コロナ対応では公立病院が大きな役割を果たしたところであり、新興感染症への対応を公立病院の機能として位置づけることに議論の余地はない。その際、公立病院が当該役割を担えるよう、ノウハウ・財源面での適切な支援を講じることが必要。

・ 感染症対応には、地域における機能分担という視点が特に重要になる。また、病床機能の見直しとの関連性について整理が必要。

・ 欧米に比べてコロナの患者数が少ないのに、日本の医療がひっ迫している原因は、病院の数は多いが、中小病院が多く、医師、看護師等の医療従事者の配置が薄いことではないか。

  イ 地域医療構想を踏まえた役割の明確化と感染症対応との関係等

・ 新型コロナウイルス等の感染症対応は、地域全体で取り組むべき課題であり、平時のうちから各病院の機能を確認して連携を確保しておくことが重要である。

・ 病院の再編統合が進み、診療科の数や医師数が分厚くなってくると、医師の労働環境の改善にもつながる上、新型コロナ等の新興感染症に対応できる余裕が出てくる。実際にある事例では、再編統合をしておいたおかげでコロナ対応ができたが、再編統合していなければ対応しきれなかったと思う。

・ コロナ入院患者の受け入れが難しい中小病院であっても、発熱外来、PCR検査などのコロナ対応を積極的に行っており、地域の中でしっかりと役割を担っている。

③ 経営の効率化

  ア 全般的事項

・ 収支改善に当たっては、費用削減だけでなく収益改善にも取り組んでいくことが必要である。

・ 経営改善に当たっては、病床規模により担うべき役割が異なることを踏まえ、それぞれの役割に応じた取組を行うことが必要となる。

・ 医業収支比率の目標達成率が約3割というのは大きな課題ではないか。

・ 特に高度急性期、急性期を提供する病院においては、高額な薬品費や機材の費用をどのように賄っていくのかというのが課題になる。

  イ 医療従事者の確保等

・ 経営改善、特に医業収益の向上を図る上では、医師、看護師等の医療従事者の確保が重要になる。

・ 医療従事者の確保の優先順位が高い。医業収支均衡を目指し取組を進めているが、達成しない要因は医療従事者の不足が一番大きい。

・ 医師の勤務環境改善は、医師確保の観点からも重要な課題。一方で、医師確保が十分でないと勤務環境の改善も難しい。

・ 特に都市部においては、再編・統合による一定の病床規模の確保が医師の勤務環境改善につながるのではないか。

  ウ 事務職員の育成・外部人材の活用

・ 診療報酬や機能分担をしっかり分析することができる事務局職員の育成が必要ではないか。

・ 材料費の増が目立つところは、民間病院と比べて価格交渉等が弱く、病院職員のスキルを上げていく必要があるのではないか。

・ 医療提供の質を高め、患者単価を高くするため、職員定数に関する病院長の権限がある程度強くなる経営形態への移行や人事当局との協議による職員採用・定数の柔軟化を進めていく必要があるのではないか。

・ 費用削減・収益改善に当たっては、コンサル等の外部のアドバイザーの活用も有効。

 ④ 再編・ネットワーク化

  ア 全般的事項

・ 再編・ネットワーク化は今後も推進すべきである。

・ 再編・ネットワーク化に当たっては、地域における医療提供体制や政策的医療をどう確保していくのかを、地域全体で検討する必要があるのではないか。

・ 再編・統合による一定の病床規模の確保が、新型コロナウイルス等の感染症対応においては重要ではないか。

・ へき地等の病院については、高齢者等の通院の困難さ等も考慮して、再編・ネットワーク化を検討すべきではないか。

・ 機能分担や医療従事者の派遣においては、経営統合が難しい場合には、地域医療連携推進法人の導入も有効ではないか。

・ 現行の病院事業債特別分を病院建物整備に充当する場合、再編により病院数が1以上減少することが条件となるが、地域における医療提供体制確保の観点から、機能を一定程度縮小して病院を存続する例もあり、そのような場合に一定の条件を付した上で病院事業債特別分の対象とすることも考えられるのではないか。

  イ 医師確保・働き方改革との関係

・ 再編・ネットワーク化に当たっては、一定の病床規模を確保することにより環境の整備を進め、医療従事者の確保を図るという視点が重要ではないか。

・ 再編・ネットワーク化によって病院の規模が大きくなると、医療従事者が集まりやすくなる。感染症への対応力を強化する上でも重要。

・ 医師はやはり急性期病院である大病院に集まる傾向がある。特に若い医師は修練のため、中小病院の慢性、回復期に近い病院には集まらない。基幹病院と中小病院間での循環型の医師配置等を検討すべき。

・ 医師の働き方改革の観点からも、再編・ネットワーク化による選択と集中が必要ではないか。

病院機能の再編成(公的病院、民間病院等との再編を含む)

・ 公立病院同士だけではない多様な再編・ネットワーク化が進んでおり、広く医療圏の中で連携・機能分化が模索されていることの表れではないか。

 ⑤ 経営形態の見直し

  ア 全般的事項

・ 経営形態の見直しに当たっては、地域での役割を重要視しながら、地域全体で検討していくべきではないか。

・ 経営形態の見直しに当たっては、単純なコストカットではなく、経営形態を見直すことにより医療従事者の確保を図るという視点が重要ではないか。

・ 全部適用には経営責任と権限の明確化というメリットが、地方独立行政法人化には目標管理による病院経営や職員採用の柔軟化というメリットがあり、目的に応じて経営形態を選択していくことが重要ではないか。

・ 経営形態の見直しを行う際には、自治体によるガバナンスの維持という観点を考慮する必要がある。

イ 地方独立行政法人化

・ 地方独立行政法人化等の経営形態の見直しは、職員採用・定数の柔軟化といったメリットがあるのではないか。

ウ 指定管理者制度・民間譲渡

・ 民間譲渡や指定管理者制度への移行は不採算医療や感染症への対応が手薄になる可能性があり、コストカットのみを目的として安易に行うのは避けるべきではないか。

  エ 事業形態の見直し

・ 診療所化に係る財政支援へのニーズは一定程度存在するのではないか。

 ⑥ 公立病院改革に関する総括的な評価について

  ・ 「公民の適切な役割分担」と「経営効率化による持続可能な病院経営」の下での「地域に必要な医療提供体制の確保」という公立病院改革の目的は、まだ道半ばであり、引き続き公立病院改革に取り組むことが必要ではないか。

・ 再編・ネットワーク化や経営形態の見直しの際には、地域に必要な政策的医療の提供が継続される担保が必要

(2) 公立病院等関係者からのヒアリングにおける意見等について

  ヒアリングは次の3氏から行われた。3氏のうち、岩中氏(埼玉県立病院機構理事長)と栗谷氏(山形県・酒田市病院機構理事長)の提出資料は参考資料を参照されたい。ここでは、意見交換の内容がまとめられているので紹介する。

  ・地方独立行政法人埼玉県立病院機構理事長 岩中 督 氏

  ・地方独立行政法人山形県・酒田市病院機構理事長 栗谷 義樹 氏

  ・公益社団法人全国自治体病院協議会会長 小熊 豊 氏

<意見交換の内容>

① 埼玉県立病院機構 岩中理事長の説明について

● 地方独立行政法人化と同時に医師が87名増えたとのことだが、内訳はどうか。専門医と、専攻医がかなり多くを占めるのか。

→非常勤から常勤化したのが一番数が多く、50名。あわせて、年俸制の導入により報酬を増やし、雇用が増加。

● 独法化以前に、小児医療センターをさいたま赤十字病院と併設する形で移転新築し、職員確保や機能充実に効果を発揮したと聞くが、詳しくお話しいただきたい。

→医師の確保が進み、これまで扱えていなかった分娩が可能になったほか、重傷の外傷も対応可能となった。また、ヘリポートや院内保育所を共同設置することで、費用対効果の高い連携ができた。

● 今般の新型コロナ対応の中で、県立病院時代だったらできなかったであろうことが、独法化によってできるようになったといったことはあったか。

→医師・看護師等を、複数病院間で兼務をかけたり、支援派遣をしたりといった機動的な対応、病院間の連携が可能となった。

② 山形県・酒田市病院機構 栗谷理事長の説明について

● 地域医療連携推進法人をつくることを目指された動機は何か。

→経営を分析している中で、人口減少による患者減少が既に始まっていることが分かり、このままでは急性期機能を維持できない、地方では機能分化していかないと共倒れになるという危機感があった。

● 地域医療連携推進法人の関係者間での意思統一、調整をどのように行っているか。

→定例の理事会のほか、5つのワーキンググループを作って実務者同士の会議を行っている。山形県・酒田市病院機構が他の参加法人に医師を派遣するなどの支援を行っており、良い協力関係が出来上がっている。

③ 全国自治体病院協議会 小熊会長の説明について

● 自治体病院協議会会長として、今回の新型コロナウイルスに対する自治体病院の果たした役割についての総括は。

→コロナの正体も分からず、個人防護具も手に入らない中でも手探りで、しっかり対応していただけた。自治体病院の職員としてのモチベーションを高く保ち、地域の住民に貢献するということを身をもって示してくれたと評価している。

● 独法化すると職員定数等に関する自由度が高まる面がある。一方で独法化に至らない病院も多く、そうしたところは職員定数の縛りが厳しく、経営上も厳しい上に、コロナ対応も十分にできなかったところが多かったのではないか。職員定数に関する考えはどうか。

→一部適用よりは全部適用、全部適用よりは独法化が、職員定数の面でも給与制度の面でも自由度が高まり、望ましい。ただし独法化は、規模が大きい病院で効果を発揮すると思う。

● 自治体病院協議会会長として、次期ガイドラインに期待する内容は何か。

→地方の小規模な公立病院は、単独では生き残るのが難しくなってくる。地域全体で公立病院のあり方、医療提供体制のあり方を考え、連携・補完し合っていくべき。また、教育・研修体制が充実しないと、医療人材は確保できない。教育・研修の拠点となる役割を持つ病院と連携していく必要がある。

加えて、コロナに対しても、今後の新興感染症に対しても、施設整備や人材育成といった平時からの準備が必要。

● 地域全体で医療提供のあり方を考えていかなくてはいけないという話の中で、県の役割をどう考えるか。

→市町村同士の垣根、利害を取り払っていくためには、都道府県が仲介役、とりまとめ役になるしかないと考える。

  • スケジュールにこだわらずに検討を

 この項の冒頭で述べたように、私が考える「新たなガイドラインの方向性(中間まとめ)」の問題点・課題は、すでに示している。ここではまず、公立病院等関係者からのヒアリングや公立病院改革の取組の検証等に関する意見交換会における意見等の中から、いくつか再掲しておきたい。

  • 再編・ネットワーク化に当たっては、地域における医療提供体制や政策的医療をどう確保していくのかを、地域全体で検討する必要があるのではないか。
    • 再編・ネットワーク化に当たっては、一定の病床規模を確保することにより環境の整備を進め、医療従事者の確保を図るという視点が重要ではないか。
    • 医師はやはり急性期病院である大病院に集まる傾向がある。特に若い医師は修練のため、中小病院の慢性、回復期に近い病院には集まらない。基幹病院と中小病院間での循環型の医師配置等を検討すべき。
    • 病院機能の再編成(公的病院、民間病院等との再編を含む)は、公立病院同士だけではない多様な再編・ネットワーク化が進んでおり、広く医療圏の中で連携・機能分化が模索されていることの表れではないか。
    • 経営形態の見直しに当たっては、単純なコストカットではなく、経営形態を見直すことにより医療従事者の確保を図るという視点が重要ではないか。
    • 経営形態の見直しを行う際には、自治体によるガバナンスの維持という観点を考慮する必要がある。
    • 民間譲渡や指定管理者制度への移行は、不採算医療や感染症への対応が手薄になる可能性があり、コストカットのみを目的として安易に行うのは避けるべきではないか。
    • 再編・ネットワーク化や経営形態の見直しの際には、地域に必要な政策的医療の提供が継続される担保が必要
    • 地方の小規模な公立病院は、単独では生き残るのが難しくなってくる。地域全体で公立病院のあり方、医療提供体制のあり方を考え、連携・補完し合っていくべき。また、教育・研修体制が充実しないと、医療人材は確保できない。教育・研修の拠点となる役割を持つ病院と連携していく必要がある。
    • コロナに対しても、今後の新興感染症に対しても、施設整備や人材育成といった平時からの準備が必要。
    • 市町村同士の垣根、利害を取り払っていくためには、都道府県が仲介役、とりまとめ役になるしかないと考える。

 いずれにしても、スケジュールありきの検討ではなく、民間もふくめた地域医療体制の構築のためには、「公立病院経営強化ガイドラインの方向性」の最終のまとめにあたって、「最終まとめ」案の公表後にパブリックコメントもふくめた意見聴取の機会を広く設けるべきである。自治体に対する「公立病院経営強化プラン」の策定の要請も、その時期やプランの期間などには柔軟性を持たせることを要望したい。

<参考資料>

■ 報道発表資料

■ 「持続可能な地域医療提供体制を確保するための公立病院経営強化ガイドライン」の方向性について

■ 埼玉県立病院におけるこれまでの取組とこれからのあり方について

(令和3年10月27日、公立病院経営強化に関する検討会(第2回)説明資料)

■ 山形県酒田市病院機構の取り組み

(令和3年10月27日、公立病院経営強化に関する検討会(第2回)説明資料)